裏革について

久しぶりにニットカーディガンに袖を通しました。柔らかい色、優しい雰囲気のニットを着ていると「紳士的に優しい振る舞いをせねば」と意識してしまいます。この手のニットを着た人で悪い人はいないでしょうから。

 

今回は靴の裏革についてのお話です。

161119_1

161119_2

例外もありますが、革靴は表革と裏革の間に芯材(つま先と踵)が入った状態で成形されています。今までご紹介したNEW YORKやOLD ENGLANDといった革は表革として使う素材です。

ブーツ以外の靴では、裏革はこのように構成されています。(2枚とも型紙の画像です)

161119_3

こちらが先裏という靴の前方部分。足の甲部から指が触れる部分です。

 

161119_4

こちらが腰裏という靴の後方部分。主に踵周りに触れる部分です。

裏革は吸汗性、耐摩耗性があり、できるだけ靴下に色移りしない素材がベストです。

161119_5

161119_6

delightful toolでは先裏には豚革を。

 

161119_7

腰裏には牛革を使っています。

豚革は吸汗性、耐摩耗性、コストパフォーマンスに優れた素材で、靴の裏革に非常に適しています。しかし革としての綺麗さでは多少劣る部分があるため、腰裏には牛革を使っています。靴としての機能性と仕上がりのバランスを考慮して、このような組み合わせを採用しました。

裏革として使っている豚革、牛革は「著名なヨーロッパタンナーの…」といった類のものではありませんが、実際に履いてみて吸汗性や耐久性を確認した上で選んでいます。コストをかけすぎることなく、できるだけ快適に長く愛用できる仕様を心がけました。

 

161119_8

数日前、靴の製造工程を解説した本を置いてみました。靴として形になってしまうと見えにくい部分などは、この本や実際の型紙などを見ながら店頭でもお話できればと思っております。実は見えにくい部分にこそ、靴として大切な要素や作り手の考えが詰まっていますので。

ブラシをかける

足に合った良い革靴を手に入れた。さあ、しっかりと使い込んで良い経年変化をさせよう!そう意気込んで革靴のメンテナンス用品をビシッと一式揃える。きっちり使い続けられるなら、それがベストです。

161115_1

 

使いこなせる?ちゃんと続けられる?と不安が頭をよぎった方は、まずこちらから。

161115_2

ブラシを1本用意してください。後々のことも考えて、コシがある豚毛のブラシが良いです。実際に手で持ってみて、ご自身に馴染む大きさのブラシを選んでください。ブラシは毛の部分が消耗するものの、通常の使用であれば比較的長く使い続けられます。多少高価なブラシ(4,000~6,000円くらいでしょうか)を選んでみても良いと思います。やはり高価なブラシは良い素材、作りになっていますので。

きちんと紐を解いて靴を脱ぐ。靴全体にブラシをかける。2日間休ませる。

この流れを習慣にしていただくだけで、革靴の持ちは変わります。ここから革靴のお手入れを始めるのは、革靴との良い付き合い方だと思います。クリームやクリーナーを用意するのはそれからでも遅くありません。少しずつメンテナンス用品を揃えて、その使い方を身につけていけば革靴のお手入れが習慣になりやすいかなと考えています。日々のブラッシング、是非忘れずにお願いいたします。

靴を休ませる

「革靴は1日履いたら2日休ませる」

「革靴は最低でも3足をローテーションして履く」

この手のフレーズ、みなさまも耳にしたことがあるかと思います。「革靴は毎日続けて履いてはいけない」「革靴は休ませる時間が必要」ということですが、なぜでしょうか?

161114_1

それは靴(特に内部)の劣化を防ぎ、適切な経年変化をさせるためと考えています。

1日履いた靴は足から出た汗を内側から吸収します。そのため靴の内部には湿気が溜まっています。このまま翌日に同じ靴を履いてしまうと、内部の湿気は抜けきらないまま。この状態は中底や裏革の劣化につながります。

161114_2

161114_3

湿気が抜けきっていない状態は、このような目に見えにくい部分の劣化につながるため気をつけてください。

 

特に難しいことはありません。靴を脱いだらブラシをかけて休ませる。それだけです。

休ませる場所は少し意識していただきたいです。玄関にそのままポンと置かずに、風通しの良い場所で休ませるとベストです。少し高さのある棚などに逃がすと、地面に近い場所よりは良いと思います。下駄箱にすぐ入れてしまうのは、湿気がこもるのであまりお勧めしません。シュートリーなど、靴の形を整えるための詰め物を入れるのはできれば1日置いてから。靴を脱いだ直後に詰め物を入れると、湿気が逃げにくくなりますので。

革靴を休ませる期間は「1日履いたら2日」を目安にしてください。正確なデータが出ているわけではないのですが、色々な方が履いた革靴のコンディションを観察した経験からしてもこのくらいのペースが必要です。汗をかきやすい方や、湿度が高い時期、雨に降られた時はもう少し休ませる日数を設けてください。

きちんと作られた革靴(特に紳士靴)は、消耗する部分の修理を前提に作られています。ヒールやつま先のすり減りなどは修理で対応できます。しかし裏革や中底を丸ごと交換修理するのは難しいケースが多いです。適切に靴を休ませるだけで、裏革や中底の持ちは非常に良くなります。休ませつつ、定期的に履くことで革靴は履く人の足に馴染んでいきます。それが革靴の良い経年変化です。

自分らしい良い革靴に出会えた時は、是非「革靴を休ませる」意識を持って付き合ってみてください。

中底について

ブログの冒頭では天気の話をしていることが多いです。過去の記事を見直してみて自覚しました。

「急に寒くなりましたね」「今日は気持ち良い青空ですね」と日常で交わす言葉と同じ感覚で書いているのと同時に、私がその日の天気を結構気にしている証拠なのだと思います。どうも私は天気のことが気になりやすいようです。人それぞれの「天気を気にしている指数」みたいなものがあれば面白いかも、なんてくだらないことを考えてしまいました。

過去の記事を見直してそんな天気のことに気がついたのは、もちろん副産物です。オーダーシューズについて、どこまでお話できていたのかを確認することが記事を見直した目的。

お選びいただける革、底材、製法といったお話はできてきましたので、ここからはもう少し靴の内部や細かなことのお話をしていきたいと思います。

 

今回は革靴の生命線のひとつ、中底についてのお話です。

161113_1

161113_2

中底とは靴を履いた時に足の裏が触れるパーツ。靴によっては革以外の中底もありますが、革靴であればタンニン鞣しの良質な革を中底に使うことが望ましいと思います。

タンニン鞣しの革を中底に使うことで、吸汗性、履き心地が優れた革靴になります。革の中底はスポンジのような柔らかさはありませんし、最初は硬く感じられるかもしれません。しかし使い込んでいくうちに革の中底は足の裏の形状に変化し、履く人のための専用インソールとなります。「履き込んだ革靴は手放せない」「履いていくうちに革靴は馴染んでくる」と言われるのはそのためです。(実際には中底の下にあるコルクなどの部材も変化し、足馴染みに影響します)

とはいえ革の中底は靴の製法によって厚みが変わりまして、そのメリットを最大限に享受できるのは厚みがある中底です。

161113_3

161113_4

こちらはdelightful toolの9分仕立て(ハンドソーンウェルテッド製法)で使われる、厚さが5ミリの中底です。

 

161113_5

161113_6

こちらはマッケイ製法で使われる、厚さが3ミリの中底。9分仕立ての中底に比べて薄くはなりますが、それでも中底が良質な革であることのメリットは感じられます。

革靴というと本体に使われる革(甲革)に注目が集まりがちです。甲革に品質が劣る革を使うのは論外ですが、見えないところだからと中底に適当な素材を使ってコストを下げるのは問題有りです。甲革に良い革を使うのであれば、中底もそれに見合ったきちんとした革を使うべきです。大切なのは全体のバランスで、良い甲革には良い中底の組み合わせが必要です。そうしなければ長く持つ革靴には仕上がりませんので。

delightful toolの靴に使われている中底は、職人さんも私も「これなら間違い無い」と自信を持って選んだ革です。本体に使われる革と同様に中底も店頭で保管しておりますので、是非お手に取ってご覧ください。

革底(レザーソール)

本日は底材紹介の第6回。革底(レザーソール)です。

delightful toolでは、比較的返りが良いイタリア製の革底を使用しています。

161111_1

161111_2

161111_3

画像の通り「これぞ革靴!」と感じさせる綺麗な仕上がりが、革底が持つ最大の魅力だと思います。

 

161111_4

あらかじめ入れた切り込みの中に底縫いをかけることで、縫い糸は露出しない仕様。(メス入りのマッケイ製法)

 

161111_5

161111_6

ヒールのトップピースは革とゴムのコンビタイプ。クサビ型、ダヴテイルと呼ばれる形状のトップピースをつけています。(ゴムのみのトップピースもお選びいただけます)

グリップ力や耐摩耗性、クッション性であれば、革底よりもゴム底やスポンジ底の方が優れています。それでも現代の革靴に革の底材が使われているのは、ゴム底やスポンジ底では出せない「革靴らしさ」「革靴の良い緊張感」を生み出せるからだと考えています。以前お客様から「革底の靴で歩いた時、コツコツという音で背筋が伸びる」といったお話を伺った時には、非常に納得できました。

やはり大切なのは、その靴を履くシチュエーション。普段履きとはいえ、仕事でビシッと履く革靴であれば革底を選ぶのも良いですね。

ホーム 靴について ページ 9
note
Instagram
X
facebook